2010年8月1日日曜日

伊藤忍・福井隆也「はじめてのベトナムおかず」

情報センター出版局の特集ページ

発売からずいぶん経ってようやく買うことができた。元ホーチミン市在住、ベトナム料理を日本で一番おいしく紹介できるコンビである伊藤忍さんと福井隆也さんの本です。
作ってみて、とってもいいと思ったのでまじめにご紹介。
この本にはベトナムの家庭や食堂でおなじみのおいしい料理のレシピが並んでいて、私も好きな料理ばかりだが、実は「フォー」も「生春巻き」も載ってない。そういう意味では入門向きでないと思う人も多くかもしれないと思う。ところが実際に作ってみると、ベトナムの調味料や食材をほとんど使わず、作り方も簡単で、そして確実においしく仕上がる、行き届いたレシピばかりだ。日本の食材を使っているからと言って、日本人にとって食べやすい、というだけでもない。ベトナム料理を食べ慣れた私にとっても、ほお~と思うほどベトナムらしい味にできあがる。
ベトナム料理は実際非常においしく豊かなのだが、本当においしいベトナム料理に出会うのは実は簡単じゃない。高級外食産業、料理学校などの教育、レシピなどを人々に広める料理マスコミなどが発展していないからだ。それは、発展途上国であり、かつ貴族や王族などの特権階級が現存しないという社会構造にも由来する。だから、高いレストランでもピントの外れた料理が出てくることも珍しくない。結局、料理上手の作る庶民の家庭料理が最もおいしいということになるのだが、暗黙知に支えられたその考え方や作り方のポイントを的確につかむのは、外国人はもちろんベトナム人にも難しいことなのだ。
これをなんとか理解したいと思うなら、ひたすら、いろいろな場所でいろいろな人の作る料理を食べ、作り方を習い、考えて、基本原理を自分で探し出していくしかない。伊藤さんのレシピはそうやってつくられたものだと思う。ただおいしい料理の作り方をそのまま真似するだけでなく、そこに通底する原理を考えてアレンジしているから、日本にある材料でもおいしくできるのだ。
例えば、煮物に甘みとコクを出すために使うココナッツジュースをりんごジュースに置き換えたり、ベトナム人が旨み=甘みと考えて使うベトナム風のうま味調味料を少量の砂糖に置き換えたりしているのだが、こうすることで、慣れない材料を使ったレシピよりもむしろおいしくできる。また、干しえびを一度炒めて香りを出してから煮てスープを取るとか、タレを作るときに水ではなくお湯で割るなど、料理上手なら知っているのかもしれないコツを理由を踏まえて解説してくれている。だからどうしてそうしたほうがいいのか納得できる。
だから、フォーも生春巻きもなくても、初めての人にもおすすめできて、ベトナム料理をよく知る人にも納得できる、価値ある一冊だと思う。私は全部作ってみてマスターしたいと思っています!